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サマリタンズホームページより/18号

 

2018年4月10日発行

■サマリタンズはバス広告で電話することを呼びかけています

解題:日本の「いのちの電話」の源流となるイギリスのサマリタンズが、実際どのような宣伝活動を行っているのかを紹介する記事です。
広報、宣伝をいかに広範囲に、日常生活の中にあるべきものとしているかという視点から、サマリタンズのプログラム・マネージャーや鉄道産業の方々のインタビューを、2017年3月15日のサマリタンズ・ニュースより紹介しています。

 サマリタンズのプログラムマネージャー Ola Rzepczynska氏 は言います


「人生は辛く、そして誰もが乗り越え難い苦しみを感じます。私たち専門の訓練を受けたボランティアは、あなたが話したいことが何であれ、そして、たとえ今、あなたの人生に何が起こっていたとしても、あなたの話にゆっくりと耳を傾けます。 私たちのヘルプラインをバスに告示することによって、より多くの人々に届いてほしいと願っています。誰もがサマリタンズと繋がれることを知ってほしいのです。通話料無料で、あなたの電話料金に表示されません。」

 サマリタンズは鉄道産業とともに2010年から活動をしています。自殺予防の技術のためにサービスを知ってもらう活動をし、数千人の鉄道職員に自殺予防の方法を訓練しています。 昨年から始めた We Listen Campaign「私たちは耳を傾けますキャンペーン」はひときわ目立つ電光掲示板とイギリス国内すべての駅のポスター、そして電車の切符の裏に広告を載せています。

 毎年イギリスでは交通事故による死者よりも3倍以上の人々が自殺によって亡くなっています。自殺は50歳未満の男性と、24歳から35歳までの若い男女の最大の死亡原因になります。 先週発行されたサマリタンズの「不平等による死」というレポートにもあるように、社会的経済不利益もまた自殺のリスクを増やしています。最も貧しい背景を持つ人が自分の命を絶つ可能性は裕福な背景を持つ人々の10倍以上なのです。

 鉄道以外でもキャンペーンをすることによって、サマリタンズと鉄道産業は「私たちはただ聞くのではありません。あなたの言葉に耳を傾けます」というメッセージで、一人で苦しまず、支援を求めるよう、あらゆる職業の人々に働きかけたいと願っています。


 鉄道ネットワークプログラムマネージャー Ian Stevens 氏は言います

「すべての自殺による死は悲劇であり、関係するすべての人々に心的外傷を与えます。『私たちは耳を傾けますキャンペーン』を広め、そしてより多くの人々にサマリタンズのサービスを知ってもらうことで、私たちは共にもっと多くの人命を救うことができると考えています。 バス広告でサマリタンズは何百何千もの人々に『サポートが受けられます、一人で苦しむ必要はありません』というメッセージを届けます。」

 ロンドン・ミッドランド鉄道取締役社長 Patrick Verwer氏は言います

「私たちは『苦しみ打ちひしがれているであろう誰しもの傍にいます』というメッセージを人々に送り続ける広範囲な鉄道産業と、そしてサマリタンズと共に働いていることに誇りを持っています。 メッセージは広がれば広がるほど効果が高まります。そしてバス、病院、GP(かかりつけの診療所)はこのキャンペーンをひろめるための理想的な場所になります。」

 一般市民はキャンペーンに注意をはらって、ソーシャルメディアが使っている#WeLesten.「私たちは耳を傾けます」というハッシュタグ(#)のついた言葉を広げることを求められています。 ウェールズでは広告は2か国語です。サマリタンズがイギリス英語とウェールズ語の両方の言葉のサービスを推進しているので、バスを通して主に2か国語でサポートサービスを奨励しています。

 ウェールズでは別のキャンペーンも展開されています。両国の言語で、サマリタンズの無料電話番号の詳しい情報をガソリンスタンドの給油ポンプにに載せており、給油する度、運転手に呼びかけています。 “We Listen”というサマリタンズのキャンペーンは先週6か国対戦でアイルランドを破ってウェールズがカーディフ スタジアムで勝利している間の広告で、何百万人ものラグビーファンに宣伝をしました。

 誰もがコンタクトをとることができるサマリタンズです。あなたが連絡をとりたいと思ったならばいつでもどの電話からでもフリーコールをかけてください。 116 123 (この番号は無料で、あなたの電話に請求金額は表示されません)[email protected]又はwww.samatitans.orgであなたの近くの支部を検索してください。

 サマリタンズの「私たちは耳を傾けますキャンペーン」や、鉄道ネットワークと広がる鉄道産業によるパートナーシップの写真やインタビューなどさらなる情報につきましては、サマリタンズ広報局にご連絡ください。 電話020 8394 8300または[email protected].までご連絡ください。

出典:Home>News>Samaritans on Buses Get PeopleTalking




■男性と自殺 ―それがなぜ社会問題なのか―

解題:以下に訳出したのは、社会的・経済的に恵まれない境遇にある中年男性の自殺者が多いことの背景を分析した、2012年のレポートの要旨である。 それによれば、精神衛生上の問題や経済的な問題だけでなく、男性を縛っている「男らしくあらねばならない」という意識が、男性が助けを求めることを困難にしているという。 つまりジェンダーの問題が背景にあるのだ。日本でも男性の自殺者数が女性の2倍以上に上っている(昨年は男性15,121人、女性6,776人)が、その背景を考える上でも参考になる論考だ。


 このレポートが意図しているのは、社会・経済的に低い地位にある中年男性が、自殺に対して極めて脆弱である理由を説明するとともに、こうした不必要な死を減らすための提言を行うことである。 このレポートには、自殺についてこれまでになされてきた多くの研究・統計を超えた内容が含まれているが、それは、この階層の男性の人生と、なぜ彼らが人生には目的も意味も価値もないと感ずるようになるのかを理解するためには、新しい視点が必要だからである。

 自殺は、健康状態とジェンダーにおける不平等――それは貧困と不利な境遇によって引き起こされる、健康と寿命における避けることのできる差異だ――の問題として取り組む必要があり、同様に自殺は、社会が男性に対して期待するある振る舞い方が原因で、 男性により大きな影響を及ぼしている問題としても取り組む必要がある、というのが、このレポートの主要なメッセージだ。個人的な精神衛生の問題に主眼を置くことを超えて、より広い観点から自殺防止を考えることが必要であり、どのような社会的・文化的背景があって、 人が「死にたい」と感じるようになるのかを理解する時が来ているのだ。

研究方法
 サマリタンズは、5人の有力な社会科学者に、心理学・社会学・経済学およびジェンダー研究における事実と理論を再検討するよう委託した。レポートは、精神衛生の問題が、ほとんどの自殺において一定の役割を果たしていることを所与のことと見なしている。

心理的および性格的要因
 いくつかの性格特性と「ものの見方」が自殺願望を育てるのに寄与しており、そこには、「他者の期待に常に応えなければならない」という信念、自己批判、くよくよ考え込むこと、将来について楽観的な考えを持てないこと、社会的な問題解決能力の減退、などが含まれる。 これらの性格特性は、大切なものを失うなどの要因や、人間関係の破綻や失業といった引き金となる出来事と相まって、自殺の危険を増大させる。

男らしさ
 男らしさ――生育の中で男達が身に付けさせられる振る舞い方と役割、社会が男に対して期待する属性と行動様式――が、男性の自殺では一因をなしている。男達は自分を男らしさの基準と比較するが、それは権力、支配、無敵さを高く評価するような基準である。 自分はこの基準にかなっていないと男が信じるとき、彼らは羞恥心と敗北感を抱くのである。

仕事を持ち、自らの家族のために備えができることが、とりわけ労働者階級の男にとっては「男である」上で重要なことだ。  男らしさは支配と結びつけて考えられているが、男がうつ病になったり危機に陥ったりすると、「手に負えない」と感じる場合がある。このような時ある種の男は、支配力を取り戻そうとして自殺行動に自らを駆り立てる場合がある。 男は困難な状況に置かれると、薬物やアルコールに頼る傾向が強い。

人間関係の破綻
 人間関係の破綻によって自殺に導かれる可能性は、女性よりも男性の方が高い。男性は、情緒面での支えをそのパートナーに頼っている傾向が強いので、その支えを失うことは男性にとって、非常に深刻なものとして体験される。 体面もまた男らしさの一部なので、人前でそのパートナーから無礼な扱い(不貞行為とか遺棄)を受けたりすると、恥辱を感じて元パートナーに罰を加えるといった、衝動的な行動に走る場合がある。 男性は、その子供から引き離される可能性が高く、男性の自殺の中にはこのことが一因となっているものもある。

生活の感情的な側面と社会的孤立
 男達は幼年時代を通じて「男らしくあれ」と教えられてくるが、そこにおいては社会的・情緒的な力量は重視されていない。男達は深い苦悩を経験する場合があり、それにより、ついには危機に陥ることがある。 中年男性は情緒的な支えを、主に女性のパートナーに頼っている。女性達は男性に対して、自分が困難を抱えていることを認めるように援助し、世話をし、助けを求めるよう励ましている。

 女性は生涯にわたって、同性との密接な人間関係を保ちつづけるが、男性は30歳を過ぎると、仲間関係が希薄になっていく。自分の感情について話すという点で、女性は男性に比べてずっと率直であり、それはどの年齢層、どの社会階層にも共通している。

 男性の交友関係は、何かの活動を共にすることを通して得られる仲間付き合いに基づく傾向がある。男性にとって問題に対処する自然なやり方は、「話す」ことよりもむしろ、音楽や運動をすることでストレスや心配事を解消することだ。 男性は女性と比べて、カウンセリングやセラピーに対して肯定的な見方をする可能性がはるかに低い。しかし、男性も女性もともに、危機に陥ったときにはそうしたサービスを利用している。

今日の中年男性
 中年期は従来から、人生における最盛期だと考えられてきた。しかし精神的に病んだり、気持ちの上での幸福感の低下を感じる人は、若者や、より上の世代と比べて中年期の人に多いという証拠がある。中年期においては、人間関係と雇用をめぐる問題が強烈に体験される。 というのは、一般的に言って人々は、人生のこの段階までに仕事と人間関係に関して多くの投資をしてきているにもかかわらず、人間関係と雇用をめぐる状況を変える可能性には限界があるからだ。

 現在中年期にさしかかっている男性は、「緩衝地帯」をなしている世代だ。彼らは、習慣的に無口で力強く、厳格な男らしさをもつ自分たちの父親世代と、より進歩的で率直で、個人主義的傾向をもつ息子の世代との間に挟まれているからだ。 この両者のうち、どちらの人生、どちらの男性文化に従えばよいのかが、彼らにはわからない。

 さらに1970年代以降、いくつかの社会的な変化――増大する女性の雇用、出会いと別れと一人暮らしの増加――が彼らの私生活に影響を及ぼしてきている。 その結果として中年男性は、自分の力で感情的に対処したり助けを求めるという経験をほとんど・あるいはまったく持たないまま、そして、頼ることのできる援助的な人間関係をほとんど持たないまま、一人で暮らしていかなくてはならない可能性がますます高くなっている。

社会・経済的な境遇
 自殺の危険度は、社会・経済的不平等と系統的な関連を有している。社会・経済的な境遇は、さまざまな観点――職業、階層、教育歴、収入、住宅事情――から定義することができる。しかしどの指標によっても、より低い地位にいる人の自殺の危険度がより高いのである。 社会的地位の段階を下がるにつれて、自殺の危険性は高くなり、背景にある精神衛生の問題を考慮に入れても、その傾向は変わらない。

 低い社会的地位が自殺の危険性をどのように増大させるかについては、論争がある。 理由として挙げられているのは、不運な経験を重ねていること、無力であること、恥辱(スティグマ)と軽蔑、社会的な排除、精神的な不健康、不健全な生活様式などである。

 英国における失業率は女性よりも男性の方が高い。これは主として、男性型の雇用(たとえば製造業)の減少と関連している。また、不規則な労働形態、不安定あるいは臨時の労働、自営へと向かう全般的な趨勢、そして今日の不景気なども、男性に影響を及ぼしてきている。

結論
 自殺は個人的な行為であるとともに、精神衛生上の問題とか敗北感、そして、「自分には価値がなく、愛されてもいないし重要でもない」という意識に閉じ込められたことの悲劇的な結実である。しかしながらこうした感情は、特定の社会的、経済的、文化的背景の中で生み出されるものだ。 このレポートでは、多くの重要な社会的な変化が過去50年にわたって起きてきたことを示している。たとえば、抑圧的な戦前文化から進歩的な戦後文化への移行、男女の役割と家族の構造に起こった変化、経済的な構造改革と伝統的な男性型産業の減少などである。

 これらのプロセスは、社会の中で均一に影響を及ぼしてきたわけではない。それらは、こんにち中年期にさしかかっている男性達に、とりわけ難題をもたらしている。そしてその難題は、社会・経済的に低い境遇にいる男性に対してより厳しく作用するのである。 そうした社会的状況が示唆しているのは、このグループに属する男性は、自殺をめぐる複合的な危険因子にさらされがちだ、ということであり、それらの危険因子は相互に組み合わさって破壊的にはたらく、ということだ。

 彼らは、自分たちの仕事や人間関係、そして自分らしさ(identity)が、徹底的に打ちのめされるのを目撃してきた。 そうした男達にとって、人生の現実と男らしさの理想との間には、巨大な隔たりが存在しているのだ。

提言
 サマリタンズは、中央政府、各種行政機関(健康・福祉・雇用・社会事業など)、地方自治体および非営利団体に対して、恵まれない中年男性の自殺を減らす行動を取るよう求めている。われわれの提言は以下の通り。

1、自殺における社会・経済的格差、およびジェンダー格差を少なくすることを、自殺防止戦略は、明確な目標として掲げる必要がある。

2、男性が持つ信念、関心、背景―とりわけ、「男であるとはどういうことか」について男性がどのように考えているか―について理解することを、自殺防止対策は重要な柱にすべきである。

3、中年男性が体験する複合的な困難に対しては、関係機関が協力して取り組むべきである。そのためには、自殺防止のための責任と説明責任を、地域レベルで明確に割り当てる必要がある。

4、家庭医が担っている、男性の苦悩を明確にしたり、それに対処する活動を援助すべきである。さらに、家庭医こそ、中年男性が相談を持ち込む上で最も有望かつ正式な頼みの綱であることを認識する必要がある。

5、心理療法を提供することで、自殺と関連のある特有の心理学的要因に取り組む必要がある。とりわけ男性が、社会的・感情的技量、ストレスの処理能力、他者への期待を持てるようにする必要がある。

6、男性が日常生活の中で困難を切り抜けてきたやり方を参考にして、男性との共同作業のための革新的な手法を開発すべきである。

7、アルコールおよび薬物に関する防止活動と自殺防止との連携を図るべきである。また、薬物の誤用・男らしさ・貧困と自殺が関係していることを認識する必要がある。

8、中年男性における自殺の危険性の中で、社会的な断絶が大きな役割を果たしていることを認識すべきである。さらに、男性が社会的な人間関係を築くための援助をすべきである。

9、労働市場から排除されている男性が再び仕事に就けるように、援助すべきである。


出典:Home>About us>Our research>Researchreport:Men and Suicide



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