サマリタンズホームページより/第4号
2014年4月22日発行
■サマリタンズが行う精神的援助活動についての評価
―― ノッティンガム大学による調査報告書より ――
解題:サマリタンズでは、英国内のいくつもの大学と提携して様々なテーマに関する調査研究を行い、その成果をホームページにアップしている。今回訳出したものはそのうちの一つの「要旨」の抜粋で、レポートそれ自体は本文だけで257ページ、巻末資料も合わせると300ページに及ぶ膨大な研究報告である。「ボランティアは掛け手に対して助言を与えるべきか否か」など、私たちにとっても共通する問題が検討されているので、SIDにとっても大いに参考になるのではないかと思う。
[1.要旨]
サマリタンズは、その精神的援助活動に対する評価を行うことをノッティンガム大学に委託し、それは2008年1月から2010年4月にかけて行われた。
…目的
今回の「評価」の目的は、1)サマリタンズが提供するサービスの効果に関する公平な証拠を明らかにすることと、2)このサービスを利用する人々(掛け手)とサービスを提供する人々(ボランティア)双方のニーズ、期待、体験をより正確に理解すること、にある。
…調査に協力した人々
サマリタンズ内の研究班は、英国中のボランティアと掛け手に対して、その人たちがこの評価活動にどのように参加すれば一番うまくいくかについての意見を求めた。調査結果は、ノッティンガム大学の研究班にフィードバックされたが、それは研究班が、以下のようないくつかの手法を用いる方法を設計したからである。
・1309人の掛け手がオンライン上で調査用紙に解答した
・48人の掛け手が個別面接に応じた(対面または電話で)
・掛け手とボランティアの間で交わされた55通のEメールと、3通の携帯電話によるメールが、掛け手の許可を得た上で分析された
・66人のボランティアが個別面接に応じた(対面または電話で)
・英国内の9カ所のサマリタンズの支部(それは地域、規模、活動の多様性を考慮して選ばれた)が非公式に観察された(電話を聞くことも記録することも行われなかった)
調査期間を通じて研究班は、掛け手の秘密を守るというサマリタンズの原則を侵害しないよう注意深く行動した。また研究班は、サマリタンズが提供するサービについての理解を深めるために、サマリタンズの初級研修に参加した。
[2.サービスの提供]
研究員のコメントによれば、サマリタンズの「積極的傾聴」はとても複雑なものであり、また支部で観察したところでは、ボランティアたちは卓越した技能と細心の注意を用いて掛け手を援助していることが明らかになった。また研究員は、ボランティアたちはサマリタンズの中核的な目標と価値観に責任を負ってはいるものの、適宜それらを自分なりに解釈し応用させていることも発見した。
…サマリタンズが行う援助
サマリタンズが行う精神的なサポートは、判断を下すことなく積極的に傾聴することを基礎としており、そうすることで提供される「熟考する時間」によって、人は、自分の感情を探求し、洞察力を育て、人生に立ち向かう力を得て前に進むことができるようになる。ボランティアの役割は、掛け手が自分の気持ちに注意を集中させ、どのような選択肢があるのかをよく考えることができるような、「安全な空間」を掛け手に提供することにある。積極的に自殺を考えていたり、あるいは大きな苦悩を抱えている掛け手こそが、サマリタンズが援助すべき中心的かつ典型的な相手だと、ボランティアの多くは考えている。
「とっても助かりました。あの人たちが助けてくれなかったら、私は今ここにいなかったと思いますよ。何もかもうまくいかなくなった時に、そこにいて下さるということに、とっても感謝しています。他の人にも勧めるつもりです。」(掛け手)
…掛け手のニーズ
実際にはボランティアは、様々なニーズを満たすために様々なやり方でサービスを利用しようとする幅広い掛け手に対して、援助を行っている。研究員の目から見ると、積極的傾聴と、感情について話すことで掛け手が新たな洞察力を育てて前へ進むというサマリタンズの究極の目標は、実際には常に実現できているわけではない。
…依存
対立が生ずる可能性があるのは、掛け手が依存するようになったとサマリタンズが考え、サービスの利用を制限した時であることが見出された。すなわち、掛け手による継続的なサービスの利用が不適切だとか、それが掛け手の役に立つどころか発達を妨げていると、サマリタンズが考えたような場合である。にもかかわらずサマリタンズは、制限なしに、「困っている」と掛け手が感じた時はいつでもサービスを利用できるようにしている。それゆえサマリタンズは、依存を助長しているように見られるかもしれない。加えて、掛け手の多くは、心の健康問題のような、解決のための現実的な見込みが望めない生涯にわたる問題にとって継続的に利用できる場所という点で、サマリタンズのサービスを評価しているのである。
[3.掛け手自身は、自らのニーズと経験をどのように説明しているか]
多くの掛け手が、ボランティアから受けた援助に対して強い感謝の気持ちを表明しており、サマリタンズが提供する良質な援助から何を得たかに関して、共通した意見を持っている。そしてこれは、サマリタンズが提供しようと意図している中核部分(年中無休で利用できること;迅速な対応;匿名性と秘匿性;聴く力がありかつ批判せずに聴いてくれる人と人間味のある社会的接触を持てること)とも一致している。
…サービスに対する期待
掛け手が報告するところでは、サマリタンズに電話すればどうなるかに関して、掛け手ははっきりした期待を持っていない傾向にある。助けを求めることは「行動に移すのが難しいこと」として体験されており、掛ける前には恐れと不安を感じたと、掛け手は述べている。
…即時の効果と長期にわたる変化
大半の回答者が、サマリタンズとコンタクトを持った後すぐに気が楽になったと答えている。聴いてもらい、理解してもらい、気遣ってもらえたと感じることで、たとえ問題そのものは電話の後でも解決していなかったとしても、掛け手は気が楽になり、孤独感が減少している。中には、ボランティアと話したことで「癒やし」のプロセスが始まり、積極的な行動をとるようになったり、他の形の援助を求めるようになったりする人もいる。
…掛け手はサマリタンズに何を求め、そこからどのような価値を引き出そうとしているのか
利用可能性:サマリタンズが24時間いつでも利用できること、とりわけ夜間に利用できる点を、掛け手は賞賛している。サマリタンズが「いつもそこにある」ことを知っていることで、掛け手は慰めを得ている。
匿名性:匿名で掛けられるので、掛け手は自らの問題を打ち明ける気になり、自分が助けを求めていることで感じる重圧感やきまり悪さを軽減することができる。
人間的な触れ合い:理解し合うことができ、話を聞いてもらえ、そして自分のためにそこにいてくれる、そういう現実の相手を持てることが評価されている。
社会的なつながり:掛け手の中にはこの点を評価する人がいるが、それはその人が、心の健康の問題としばしば関連して、ひどく社会的に孤立して暮らしていることによる。
自傷および自殺リスクの軽減:危機の中にいても、サマリタンズに電話をすれば冷静になることができ、自傷や自殺を思いとどまることができる点を指摘する掛け手もいる。
「必要になった時には24時間いつでも誰かがいてくれるということを知っているのは安心できることです。私の場合、9時から17時の間に危機が起こることは決してないのですから。」(掛け手)
[4.助言することと選択肢を探求すること]
サマリタンズの積極的傾聴は、掛け手が自らの選択肢を探求し、前に進む方法を見つける機会を提供する。掛け手の人生と、その苦境の解決策を見つけることに責任を負っているのは掛け手自身である。いかなる形であれボランティアが助言することは掛け手の自主性の侵害となる、というサマリタンズの原則について研究員は述べている。
…助言をめぐる掛け手の期待
掛け手に助言するのではなく、選択肢を探求できるようにするというのが、サマリタンズの方針である。しかし多くの掛け手は、助言されることを期待し、望んでいる。電話を掛けるに先立って多くの掛け手が期待しているのは、案の定、評価なしに聴いてもらうことよりもむしろ、助言、実際的な援助、相談員と一緒に解決策を見つけること、あるいは積極的に援助してくれる他の機関の連絡先を教えてもらうことである。
「それがきっかけで私は、自分の人生には自分で責任をとるしかないということがわかったんです。私には選択肢があったんです。」(掛け手)
助言されることを期待しても求めてもいないのに助言されたりすると、人はそれを、聴いてもらえていない・理解してもらえていないと感じたり、批判されたとか、無能な人間として扱われたとか感じることがある。調査の結果明らかになったことは、助言や解決策がすぐに得られないとがっかりして欲求不満になる掛け手がいる一方で、助言を求めもしないし、助言されたと思うと不快に感じる掛け手も他方ではいることだ。しかし調査回答者の大多数は、助言されてきたという印象を報告している。サービスを向上させるために掛け手が示してくれた提案で最も多かったものの一つは、単に、「ボランティアは、助言を与える用意をしておくべきだ」というものだった。
研究員が指摘するのは、求められてする助言と求められていないのにする助言を区別することの大切さである。しかし、助言を求めたり期待している掛け手の場合、それがすぐに得られないと拒絶されたと感じて不満を抱くかもしれない。とりわけ、自分では解決策を見出せないような問題をめぐって何らかの確実な助けを求めている場合はそうであろう
[5.自殺]
ボランティアたちは、自殺したい気持ちを抱えている人々を援助することが、サマリタンズ活動の中心だと感じている。サマリタンズに電話を掛けることそれ自体を、ためらいのサインだとか、助けを求める声だと見なすボランティアもいるし、サマリタンズによる援助は、掛け手が自殺の試みをやめる助けになっていると信じているボランティアもいる。
…自殺の防止や減少におけるサマリタンズの役割
掛け手の中には、サマリタンズに電話した時は不安と内的葛藤の状態にいて、自殺したい・傷つけたいという強い衝動(多くの場合、彼らはその気持ちに抵抗したいと思っているのだが)と闘っていた、と述べる人もいる。回答者によって明らかになったことは、サマリタンズとコンタクトをとることは現段階では、掛け手の気持ちを落ち着かせ、それによって自傷と自殺の可能性を引き下げる上で有益であり得るということだ。しかしながら、自殺したいという思いや行動を申告している掛け手にとってサマリタンズが大いに役立っているであろうことが調査によって示されているとは言え、掛け手とのコンタクトの後に自殺が防止されたことが立証できているわけではない。
…自殺したいという考えや感情、行動の複雑さ
今回の「評価」によって明らかになったのは、自殺したいという考えと感情、死ぬ意図、自殺したいと感じている時の行動、そして対処の手段としての意図的な自傷との間にある、実に複雑な関係であった。自殺したい掛け手とはいっても、そこには実に多様なグループが含まれている。すなわち、一方の極には「死ぬつもりだ」とはっきり言う人々がいるが、他方には、自殺を企てるつもりなど決してないと述べる人もいる。ある種の人にとっては、自分の意図がその人自身にとってさえはっきりしないのだ。自殺したいという体験に関する掛け手の説明を通じて最大のテーマだと思えるものは、死と臨終に関してその人たちが感じている曖昧さと不確かさであり、またその曖昧さを自分では決して解決できないだろうと思っているその意識である。
自殺したいという考えや感情、意図をボランティアたちが理解するやり方は複雑でありさまざまだが、それはある程度、掛け手の話を反映している。一般にボランティアは、死にたいという考えや感情を口にすることが、死ぬ意志と明らかに結びついているわけではないということを認識しており、また、自暴自棄であることは、ある人々にとっては自分で対処できるようになる上で必要な、一つの対処メカニズムであると論じている。
…自殺の重視か大多数の掛け手か
研究員の論評によれば、自殺したい人を支えることはこの組織の中心的な課題ではあるが、自殺したいという考えや行動を体験している人は、掛け手の中では小さな割合を占めているに過ぎない。
「私は15年間も毎日のように、自殺したい思いを抑えようとし続けてきましたが、私が生きていく上でサマリタンズはなくてはならないものでした。サマリタンズと話したおかげで私はプレッシャーを解き放つことができ、また薬を過剰摂取したい衝動を抑えることができたのです・・・私には、サマリタンズとサマリタンズが私のためにしてくれたことを十分に言い表す言葉を思いつくことができません。彼らがいなかったとしたら、私はここにいなかったと思うんです。」(掛け手)
―― ノッティンガム大学による調査報告書より ――
解題:サマリタンズでは、英国内のいくつもの大学と提携して様々なテーマに関する調査研究を行い、その成果をホームページにアップしている。今回訳出したものはそのうちの一つの「要旨」の抜粋で、レポートそれ自体は本文だけで257ページ、巻末資料も合わせると300ページに及ぶ膨大な研究報告である。「ボランティアは掛け手に対して助言を与えるべきか否か」など、私たちにとっても共通する問題が検討されているので、SIDにとっても大いに参考になるのではないかと思う。
[1.要旨]
サマリタンズは、その精神的援助活動に対する評価を行うことをノッティンガム大学に委託し、それは2008年1月から2010年4月にかけて行われた。
…目的
今回の「評価」の目的は、1)サマリタンズが提供するサービスの効果に関する公平な証拠を明らかにすることと、2)このサービスを利用する人々(掛け手)とサービスを提供する人々(ボランティア)双方のニーズ、期待、体験をより正確に理解すること、にある。
…調査に協力した人々
サマリタンズ内の研究班は、英国中のボランティアと掛け手に対して、その人たちがこの評価活動にどのように参加すれば一番うまくいくかについての意見を求めた。調査結果は、ノッティンガム大学の研究班にフィードバックされたが、それは研究班が、以下のようないくつかの手法を用いる方法を設計したからである。
・1309人の掛け手がオンライン上で調査用紙に解答した
・48人の掛け手が個別面接に応じた(対面または電話で)
・掛け手とボランティアの間で交わされた55通のEメールと、3通の携帯電話によるメールが、掛け手の許可を得た上で分析された
・66人のボランティアが個別面接に応じた(対面または電話で)
・英国内の9カ所のサマリタンズの支部(それは地域、規模、活動の多様性を考慮して選ばれた)が非公式に観察された(電話を聞くことも記録することも行われなかった)
調査期間を通じて研究班は、掛け手の秘密を守るというサマリタンズの原則を侵害しないよう注意深く行動した。また研究班は、サマリタンズが提供するサービについての理解を深めるために、サマリタンズの初級研修に参加した。
[2.サービスの提供]
研究員のコメントによれば、サマリタンズの「積極的傾聴」はとても複雑なものであり、また支部で観察したところでは、ボランティアたちは卓越した技能と細心の注意を用いて掛け手を援助していることが明らかになった。また研究員は、ボランティアたちはサマリタンズの中核的な目標と価値観に責任を負ってはいるものの、適宜それらを自分なりに解釈し応用させていることも発見した。
…サマリタンズが行う援助
サマリタンズが行う精神的なサポートは、判断を下すことなく積極的に傾聴することを基礎としており、そうすることで提供される「熟考する時間」によって、人は、自分の感情を探求し、洞察力を育て、人生に立ち向かう力を得て前に進むことができるようになる。ボランティアの役割は、掛け手が自分の気持ちに注意を集中させ、どのような選択肢があるのかをよく考えることができるような、「安全な空間」を掛け手に提供することにある。積極的に自殺を考えていたり、あるいは大きな苦悩を抱えている掛け手こそが、サマリタンズが援助すべき中心的かつ典型的な相手だと、ボランティアの多くは考えている。
「とっても助かりました。あの人たちが助けてくれなかったら、私は今ここにいなかったと思いますよ。何もかもうまくいかなくなった時に、そこにいて下さるということに、とっても感謝しています。他の人にも勧めるつもりです。」(掛け手)
…掛け手のニーズ
実際にはボランティアは、様々なニーズを満たすために様々なやり方でサービスを利用しようとする幅広い掛け手に対して、援助を行っている。研究員の目から見ると、積極的傾聴と、感情について話すことで掛け手が新たな洞察力を育てて前へ進むというサマリタンズの究極の目標は、実際には常に実現できているわけではない。
…依存
対立が生ずる可能性があるのは、掛け手が依存するようになったとサマリタンズが考え、サービスの利用を制限した時であることが見出された。すなわち、掛け手による継続的なサービスの利用が不適切だとか、それが掛け手の役に立つどころか発達を妨げていると、サマリタンズが考えたような場合である。にもかかわらずサマリタンズは、制限なしに、「困っている」と掛け手が感じた時はいつでもサービスを利用できるようにしている。それゆえサマリタンズは、依存を助長しているように見られるかもしれない。加えて、掛け手の多くは、心の健康問題のような、解決のための現実的な見込みが望めない生涯にわたる問題にとって継続的に利用できる場所という点で、サマリタンズのサービスを評価しているのである。
[3.掛け手自身は、自らのニーズと経験をどのように説明しているか]
多くの掛け手が、ボランティアから受けた援助に対して強い感謝の気持ちを表明しており、サマリタンズが提供する良質な援助から何を得たかに関して、共通した意見を持っている。そしてこれは、サマリタンズが提供しようと意図している中核部分(年中無休で利用できること;迅速な対応;匿名性と秘匿性;聴く力がありかつ批判せずに聴いてくれる人と人間味のある社会的接触を持てること)とも一致している。
…サービスに対する期待
掛け手が報告するところでは、サマリタンズに電話すればどうなるかに関して、掛け手ははっきりした期待を持っていない傾向にある。助けを求めることは「行動に移すのが難しいこと」として体験されており、掛ける前には恐れと不安を感じたと、掛け手は述べている。
…即時の効果と長期にわたる変化
大半の回答者が、サマリタンズとコンタクトを持った後すぐに気が楽になったと答えている。聴いてもらい、理解してもらい、気遣ってもらえたと感じることで、たとえ問題そのものは電話の後でも解決していなかったとしても、掛け手は気が楽になり、孤独感が減少している。中には、ボランティアと話したことで「癒やし」のプロセスが始まり、積極的な行動をとるようになったり、他の形の援助を求めるようになったりする人もいる。
…掛け手はサマリタンズに何を求め、そこからどのような価値を引き出そうとしているのか
利用可能性:サマリタンズが24時間いつでも利用できること、とりわけ夜間に利用できる点を、掛け手は賞賛している。サマリタンズが「いつもそこにある」ことを知っていることで、掛け手は慰めを得ている。
匿名性:匿名で掛けられるので、掛け手は自らの問題を打ち明ける気になり、自分が助けを求めていることで感じる重圧感やきまり悪さを軽減することができる。
人間的な触れ合い:理解し合うことができ、話を聞いてもらえ、そして自分のためにそこにいてくれる、そういう現実の相手を持てることが評価されている。
社会的なつながり:掛け手の中にはこの点を評価する人がいるが、それはその人が、心の健康の問題としばしば関連して、ひどく社会的に孤立して暮らしていることによる。
自傷および自殺リスクの軽減:危機の中にいても、サマリタンズに電話をすれば冷静になることができ、自傷や自殺を思いとどまることができる点を指摘する掛け手もいる。
「必要になった時には24時間いつでも誰かがいてくれるということを知っているのは安心できることです。私の場合、9時から17時の間に危機が起こることは決してないのですから。」(掛け手)
[4.助言することと選択肢を探求すること]
サマリタンズの積極的傾聴は、掛け手が自らの選択肢を探求し、前に進む方法を見つける機会を提供する。掛け手の人生と、その苦境の解決策を見つけることに責任を負っているのは掛け手自身である。いかなる形であれボランティアが助言することは掛け手の自主性の侵害となる、というサマリタンズの原則について研究員は述べている。
…助言をめぐる掛け手の期待
掛け手に助言するのではなく、選択肢を探求できるようにするというのが、サマリタンズの方針である。しかし多くの掛け手は、助言されることを期待し、望んでいる。電話を掛けるに先立って多くの掛け手が期待しているのは、案の定、評価なしに聴いてもらうことよりもむしろ、助言、実際的な援助、相談員と一緒に解決策を見つけること、あるいは積極的に援助してくれる他の機関の連絡先を教えてもらうことである。
「それがきっかけで私は、自分の人生には自分で責任をとるしかないということがわかったんです。私には選択肢があったんです。」(掛け手)
助言されることを期待しても求めてもいないのに助言されたりすると、人はそれを、聴いてもらえていない・理解してもらえていないと感じたり、批判されたとか、無能な人間として扱われたとか感じることがある。調査の結果明らかになったことは、助言や解決策がすぐに得られないとがっかりして欲求不満になる掛け手がいる一方で、助言を求めもしないし、助言されたと思うと不快に感じる掛け手も他方ではいることだ。しかし調査回答者の大多数は、助言されてきたという印象を報告している。サービスを向上させるために掛け手が示してくれた提案で最も多かったものの一つは、単に、「ボランティアは、助言を与える用意をしておくべきだ」というものだった。
研究員が指摘するのは、求められてする助言と求められていないのにする助言を区別することの大切さである。しかし、助言を求めたり期待している掛け手の場合、それがすぐに得られないと拒絶されたと感じて不満を抱くかもしれない。とりわけ、自分では解決策を見出せないような問題をめぐって何らかの確実な助けを求めている場合はそうであろう
[5.自殺]
ボランティアたちは、自殺したい気持ちを抱えている人々を援助することが、サマリタンズ活動の中心だと感じている。サマリタンズに電話を掛けることそれ自体を、ためらいのサインだとか、助けを求める声だと見なすボランティアもいるし、サマリタンズによる援助は、掛け手が自殺の試みをやめる助けになっていると信じているボランティアもいる。
…自殺の防止や減少におけるサマリタンズの役割
掛け手の中には、サマリタンズに電話した時は不安と内的葛藤の状態にいて、自殺したい・傷つけたいという強い衝動(多くの場合、彼らはその気持ちに抵抗したいと思っているのだが)と闘っていた、と述べる人もいる。回答者によって明らかになったことは、サマリタンズとコンタクトをとることは現段階では、掛け手の気持ちを落ち着かせ、それによって自傷と自殺の可能性を引き下げる上で有益であり得るということだ。しかしながら、自殺したいという思いや行動を申告している掛け手にとってサマリタンズが大いに役立っているであろうことが調査によって示されているとは言え、掛け手とのコンタクトの後に自殺が防止されたことが立証できているわけではない。
…自殺したいという考えや感情、行動の複雑さ
今回の「評価」によって明らかになったのは、自殺したいという考えと感情、死ぬ意図、自殺したいと感じている時の行動、そして対処の手段としての意図的な自傷との間にある、実に複雑な関係であった。自殺したい掛け手とはいっても、そこには実に多様なグループが含まれている。すなわち、一方の極には「死ぬつもりだ」とはっきり言う人々がいるが、他方には、自殺を企てるつもりなど決してないと述べる人もいる。ある種の人にとっては、自分の意図がその人自身にとってさえはっきりしないのだ。自殺したいという体験に関する掛け手の説明を通じて最大のテーマだと思えるものは、死と臨終に関してその人たちが感じている曖昧さと不確かさであり、またその曖昧さを自分では決して解決できないだろうと思っているその意識である。
自殺したいという考えや感情、意図をボランティアたちが理解するやり方は複雑でありさまざまだが、それはある程度、掛け手の話を反映している。一般にボランティアは、死にたいという考えや感情を口にすることが、死ぬ意志と明らかに結びついているわけではないということを認識しており、また、自暴自棄であることは、ある人々にとっては自分で対処できるようになる上で必要な、一つの対処メカニズムであると論じている。
…自殺の重視か大多数の掛け手か
研究員の論評によれば、自殺したい人を支えることはこの組織の中心的な課題ではあるが、自殺したいという考えや行動を体験している人は、掛け手の中では小さな割合を占めているに過ぎない。
「私は15年間も毎日のように、自殺したい思いを抑えようとし続けてきましたが、私が生きていく上でサマリタンズはなくてはならないものでした。サマリタンズと話したおかげで私はプレッシャーを解き放つことができ、また薬を過剰摂取したい衝動を抑えることができたのです・・・私には、サマリタンズとサマリタンズが私のためにしてくれたことを十分に言い表す言葉を思いつくことができません。彼らがいなかったとしたら、私はここにいなかったと思うんです。」(掛け手)
出典:Home > About us > Our research > Independent research projects > Completed research projects > Research report:Evaluation of Samaritans Emotional Support Services