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サマリタンズホームページより/22号

 

2019年5月8日発行

■ただ耳を傾ける――大抵はそれが一番の手助け――

解題:今回はインターネット上の無料動画TED(Tech-nology Entertainment Design)で紹介されている「サマリタンズ」のソフィー・アンドリュースさんの話を紹介します。
ソフィーさんは14歳の時、電話ボックスから必死に救いをもとめる傷ついた利用者でした。生き延びたソフィーさんは21歳の時に恩返しでボランティアになりました。17年の相談歴を経て、22,000人のボランティアの統括責任者となり、全国の活動を率いる立場に立っていました。
2013年に、イギリスで大きな社会問題になってきた高齢者の孤独に対するヘルプライン「ザ・シルバーライン」を立ち上げ、最高責任者になりました。2017年現在まで150万件の相談電話を受けたとのことです。是非耳を傾けてお聞きください。
 なお、you tubeで直接お話をお聴きになりたい方は以下のアドレスで検索してください。
https://www.drsgate.com/company/c00052/307.php?&ref=mod

路上生活をしていた私

 ガラスの破片で腕を切った後、少女は列車駅のプラットホームで、疲れから浅く断続的な眠りにつきました。朝早く駅のトイレの扉が開くと、痛々しそうに立ち上がり、重い足どりでトイレに向かいました。鏡に映る自分の顔を見ると、彼女は泣き始めました。顔は汚れ、涙の跡が頬に残っています。破れたシャツは血に染まっていました。

 その姿はまるで、3日どころか3か月もの路上生活の後のようでした。彼女は可能な限り身なりを整えました。両腕とお腹がひどく痛みます。傷をできる限りきれいにしても、少しでも力を加えるとまた出血しました。傷口を縫う必要がありましたが、病院には絶対に行けません。また家に帰されてしまいます。あの男の元に。彼女はジャケットをしっかりとまとい、きちんと前を閉めることで、血痕を隠したのです。

 鏡に映る自分の姿をかえりみると、少しはましに見えましたが、もはや見映えなど気にもなりません。考えつくのはたったひとつのことだけ。彼女は駅を出ると、そばの電話ボックスに駆け込みました。

(電話の鳴る音)
(女性)「サマリタンズ」です。どうされましたか? もしもし、サマリタンズです。どうしましたか?
(少女)(泣きながら)あの…、どうしよう。
(女性)どうしたの? 動揺しているわね。
(泣き続ける少女)
(女性)まず名前を教えてくれる? 私の名前はパム。あなたを何て呼んだらいい? どこから電話しているの? そこは安全かしら?
(少女)ロンドンの電話ボックスにいる。
(パム)若い子の声に聞こえるけど、あなたは何歳?
(少女)14歳。
(パム)何でこんなに動揺しているの?
(少女)死にたいの。毎日起きる度に思うの、死にたいと。あの男に殺されないのなら、自分の手で死にたいの。
(パム)電話をくれてよかった。最初から話してみて。

 パムは、自分のことを話すようにと優しく促しました。その子は多くは語らず、沈黙することも多くありました。でも、パムがいてくれて、話を聞いてくれるというだけで安心しました。
 電話をかけた14歳の少女は私でした。電話ボックスに逃げ込んだのは私です。私は家出し、ロンドンの路上で野宿をしていました。私は父親と父の友人達に性的虐待を受けていました。毎日、自傷行為を繰り返し、自殺を考えていました。初めてサマリタンズに電話をした時、私は12歳で全く絶望的な気持ちでした。 母が私を見捨ててから数か月経った頃のことです。母は私を家に残して姿を消しました。父親とその友人から受けていた虐待のせいで、私は全く無残な状態でした。家出を繰り返し、学校を欠席したり、酔って登校したりしました。希望を失い、死にたいと思っていました。そこにサマリタンズが手を差し伸べてくれました。


サマリタンズのボランティアに

 サマリタンズの活動は1953年に始まりました。24時間無休体制の、イギリスの匿名ヘルプラインで、絶望や自殺を考えている人が、誰でも救いを求められます。私はまさにそんな状態でした。年中無休でボランティアが電話に応対し、電話の内容は秘密厳守されます。強い絶望を感じていたティーン・エイジャーの私にとって、サマリタンズはライフラインになりました。

 話の内容は絶対に秘密厳守だと約束してくれ、そのおかげで私は信頼できたのです。私の話を不穏に思ったでしょうが、決して動揺を見せませんでした。救いを求める私の話を、偏見を持たずに聞いてくれました。助けを求めるようにと、優しく促してくれ、話していると落ち着きました。面白いほど対照的でした。他の時は常にどうしたらいいかわからないと感じていたのですから。自傷行為だけが、自分の手で行える唯一の行為だと感じていました。

 数年が経って、少しは生活を立て直すことができました。苦しい過去と向き合って生きるために、十分なサポート体制を得られました。  私は虐待の被害者ではなく、生存者になっていました。21歳の時、サマリタンズに再度連絡しました。この時はボランティアになりたいと思ったからです。私の命を救ってくれた団体に恩返しをしたいと思ったのです。思いやりをもって耳を傾けるというだけで大きな効果を及ぼしうる――自分の話を偏見を持たずに聞いてくれる人がいることで、大きな変化を起こしうると知っていたのです。

 そこで遅れていた勉強に励み、なんとか仕事をくれる人も見つけて、サマリタンズでのボランティア活動を楽しいと感じていました。「楽しい」と表現するのは おかしい気もします。苦悩や苦痛のただ中にいる人のことを考えるのは、誰だって辛いものです。でも私は聞く耳を持つ者の、大きな役割を理解していて、絶望的な状況で、誰かがそばにいることの多大な重要性を感じ、自分自身も一人のサマリタンとして、人を助けられることに深い満足を感じていました。

 何年にもわたるサマリタンズでの奉仕活動で、様々な役割を務めましたが、2008年が、その頂点でした。3年間、団体の統括責任者を務めることを依頼されたのです。私は、電話ボックスから必死に救いを求める、傷ついた利用者から、2万2千人のボランティアを統括し、この団体の全国の活動を率いる立場になったのです。当時、よく冗談で言ったものです。「利用者として失敗しても、気づいたらその組織を統括する立場になることもある」と。(笑)

 まさに私がそうでした。すべての事柄において専門化が進む世の中にあって、私は話を聞くという簡単な行為こそが、人生を大きく左右しうることを深く理解していました。人生のあらゆる側面において応用することができる、シンプルな発想です。


孤独は死亡率を高める

 私がサマリタンズに連絡した1980年代には、児童虐待について誰も話したがりませんでした。多くの場合、被害者が責任を問われ、非難されました。恥ずかしいことだと見なされ、誰も話したがらなかったのです。現在は、非難と恥辱が違う問題に向けられています。口にすることがはばかられる問題は別にあります。その問題とは、孤独感を話題にすることです。孤独感と疎外感は、健康に深く影響します。孤独は健全な生活を送る上で大きな影響となり得るのです。

 最近の統計的な調査によると、孤独は死亡率あるいは若年死亡率を最高30%も増加させます。高血圧を引き起こしたり、うつ病の危険性を高めたり、アルコール依存や喫煙による死亡率にも深く関係していると言われています。孤独は15本のタバコを吸うことよりも有害なのです。一日あたりですよ。一生の間ではなく、一日あたりの害です。認知症の発症率にも関連しています。また、最近の調査によると、孤独な人々は2倍もアルツハイマー病を発症しやすいといいます。もちろん一人で住んでいても孤独ではない人も沢山います。ですが、認知症を患う伴侶を介護している人はとても孤独になり得ます。

 最近行われた画期的な研究によって、孤独とは何であるかがハッキリと定義されました。それによると、孤独感とは、人との交わりの欠如や喪失を嫌だと思う主観的な気持ちです。そしてそれが起こるのは、既存の人間関係と、望んでいる人間関係の質と量に不釣り合いが生じた時です。さて、私が人生で受けた最良の手助けは、人との交わりの中で思いやりをもって耳を傾けてもらえた時です。この分野の専門家は―この場に沢山おられると思いますが―重要な役割を担っています。でも私にとっては、ボランティアの人が自分の時間を使って私の話に偏見を持たずに秘密を守って耳を傾けてくれたことが、人生を大きく変化させることにつながりました。そのことはいつまでも忘れられませんでした。


高齢者のためのヘルプライン

 すでにお察しだと思いますが、十代の私は人生の道を踏み外し、毎日が明日をも知れぬ身でしたが、ボランティアの人が話を聞いてくれたことが、ずっと支えになっていました。私が自分の人生で、やっと過去と向き合える時点を迎えた時、今度はお返しをしたいと思うようになりました。私の経験では、人生を変えるような手助けを受けた人たちは、常にお返しをしたいと思っています。私はサマリタンズで25年間ボランティアをすることで感謝を返しました。

 そして2013年に、新しく浮かび上がった孤独感という問題に対処すべく、英国全土で高齢者のための新たなヘルプラインを立ち上げました。「ザ・シルバー・ライン」は、孤独で疎外された高齢者を支援するのが目的です。発足から今までの短い期間で 150万件の電話を受けました。毎日のように集まるコメントからも、大きな変化につながっていると感じます。中には、ただ話し相手がほしい人や、地元の情報を求める人もいます。自殺願望のある人もいますし、虐待を通報するために電話をかけてくる人もいます。そして中には、かつての私のように、人生にあきらめてしまった人もいます。ヘルプラインを設置することは、言ってみれば簡単な発想です。立ち上げ当初を思い返すと、今と同じ堅苦しい「最高責任者」という肩書きではありましたが、管理しているのは自分1人でした。当時の会議はずいぶんとスムーズでしたね。私1人でしたから。(笑)

 活動は当時から進展し、2017年の現在では200人以上のスタッフが高齢者に耳を傾けています。年間通じて、週7日24時間体制です。さらに3千人以上のボランティアが、ご機嫌伺いの電話を、自宅から毎週かけています。また、言葉を書く方が好きな人のために、「シルバー・レター」もあり、ペンパルとして手紙を書いて、文通が好きな高齢者に手紙を届けています。

 「シルバー・サークル」という試みも発足させました。必ず「シルバー」とつけているのにお気づきですね。「シルバー」とつくのは、うちのサービスです。「シルバー・サークル」は、グループ通話で共通の話題について語り合うことができます。私のお気に入りは、音楽のグループで、毎週、電話を通して、皆がお互いに楽器を弾いて聞かせ合っています。みんな同じ曲を弾いているとは限りませんが。(笑)

 「楽しい」と喜んでくれています。「楽しい」というのは興味深い言葉です。なぜなら、ここまでお話ししたのは、絶望や孤独や疎外感のことだからです。でも、うちのヘルプラインでは、笑い声も沢山耳にします。シルバー・ラインでは、高齢者の人々の充実した生活と、彼らの経験を大切にしたいからです。では、例をお見せしましょう。私たちが受ける電話の一例です。

(音声)おはようございます。ザ・シルバー・ラインです。私はアランです。どうされましたか?
(女性)もしもし、アラン、おはよう。
(アラン)こんにちは。
(女性)(元気に)こんにちは!
(アラン)今朝の調子はどうですか?
(女性)元気よ。
(アラン)それは良かった。
(女性)電話って素晴らしいと思わない?
(アラン)素晴らしい発明ですね。
(女性)私が子供の頃にはね、本当に昔のことだけど、誰かに電話したいと思ったらお店に行くしか方法がなかったの。お店の電話を貸してもらって、お店に電話代を払って電話をかけたの。だから好きな時に電話をかけられなかったの。
(アラン)そうでしたか。
(女性)(咳き込む)失礼。(咳き込む)ごめんなさいね。だから電話の内容も、必要最小限しか話せなかった。でも今はこうやって、自宅で座って寝間着姿のままで電話ができるのよ。素晴らしいと思わない?
(アラン)本当ですね(笑)

人は人生のキャッチャーを必要とする

 この電話は特に珍しいものではありません。この方は私たちを家族のように思っています。
 サマリタンズが私に手を差し伸べてくれたように、シルバー・ラインは高齢者に手を差し伸べています。週7日24時間体制で、秘密を守って耳を傾けています。助言をしないことも多いです。助言をせずに、ただ人に耳を傾けることがどれほどあるでしょうか? 実は結構難しいのです。多くの場合は、高齢者の方がこう言います。「あなたの意見が聞きたいの」と。20分ほど話してみると、「ご意見をありがとう」と言われて、意見など言わなかったことに気づきます 。(笑)

 ただ耳を傾けて、会話を遮らなかっただけです。でも、相手は助言を受けたかのように受け止めます。「ザ・シルバー・ライン」が最近行ったある調査で、3千人の高齢者に、サービスを評価してもらいました。ある人からすんなり返ってきた答えは、生まれて初めて自分に、クリケットでは 「wicket keeper(キーパー)」、野球ではキャッチャーにあたる人ができた、というものでした。アメリカに来てたった2日ですが、もうアメリカ風に話しています。イギリスに帰ったら別人と思われるでしょうね。(笑)

 初めて、自分の生活の支えとなるキャッチャーができたと、これは大変重要なことです。これですべてがつながりました。キャッチャーが必要でシルバー・ラインに電話した人々が、自らキャッチャーとなって恩を返しているのです。ボランティアとなり、この団体の家族の一員となっています。

 最後に、冒頭にお話しした私自身の経験で締めくくりたいと思います。自分の人生の話をする度に、私は恵まれていたと言うのですが。 すると、ほとんどの人が、なぜかと聞いてきます。その理由は、私が人生の節目を迎える度に、幸運にも必要な時に、支えとなる人がそばにいてくれたからです。私を信じてくれたおかげで、私も自分をほんの少し信じられるようになり、それが私の支えになったのです。生きる上で、誰もがキャッチャーを必要とする時が来ます。

 彼女が私のキャッチャーでした。そう、パムです。30年以上前のあの日、14歳の私の電話を受けてくれた人です。人間同士の交わりから生まれる力を決して軽く見ないでください。それが人の命を救う力となることが多くあるのですから。

 ありがとうございました。

(拍手)

出典:https://www.drsgate.com/company/c00052/307.php?&ref=mod


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